彩鳳舞丹霄☆前川 多仁の鬼魔愚零録☆

染織工芸を出自とした美術家、前川多仁の公式Blogです。

☆テクノロジーへの誤解☆

今日は、ちょっと真面目に…。。。

長文ですが、時間つぶしにご一読いただければ幸いです。。。

 

 

悲しいかな、コロナ禍がきっかけで、リモートや新しい情報の発信・共有方法、新しい人とのつながり方、その他さまざまななテクノロジーの可能性や、その利便性に気づいた人はとても多いと思います。

 

コロナ禍で半強制的であったにしても、結果として、リモートワークやリモート呑み会、リモート授業、リモート教育などなど、多くの人にテクノロジーは一挙に広がり、その恩恵を受けています。

 

コロナ禍により、自然環境が飛躍的に改善したという報告もあります。

ただし、これに関しては、製造業など多くの経済活動がストップしていることも要因としてあり、慎重に考えなければなりませんが、少なくともリモートなどによるテクノロジーの恩恵で、自然環境が少しでも改善されたと僕は考えています。

(けっしてコロナ禍を歓迎している訳ではないので、誤解のないよう。。。

むしろコロナ禍で、僕の予定していた展覧会は全て吹っ飛び、コロナ禍は僕にとっても死活問題です。。。)

 

 

僕は、以前から、テクノロジーは人類を救うという立場をとっていて、口がすっぱくなるくらい、その可能性をアートや特に僕が出自とする工芸(染織工芸)の分野で発信してきたつもりです。

 

しかしながら、何年も何年も言い続けててきたけども、特に工芸の分野においては、たいてい否定的に批判されたり、嫌悪感をもたれてきました。。。

 

そこには、工芸という分野において、手仕事や自然への崇高な考えが、ドシッと横たわっているからで。。。

 

もちろん、そうした考えは間違っていないし、僕も否定していません。

 

っというより、むしろテクノロジーが高度化するすにつれ、そこには身体性がますます容易に生まれ、テクノロジーによる技術は手仕事となんら区別もなくなります。

 

また自然との境目もシームレスになり、テクノロジーと自然は一体化へすすんでいくでしょう。

 

テクノロジーと手仕事・自然という構造は、二項対立のものとして、もはや存在していないし、もうその一体化の現象はすでに急速にすすんでいます。

 

この辺りの話を書くと、とても長くなるので、僕が一昨年に発表した研究ノート(試論のようなもの)と併せて、また別に書きたいと思います。

 

そして、今回は、3月にとある美術館で開催したけど、コロナ禍で途中で臨時休館してしまったTシャツをテーマにした展覧会がありました。

 

企画いただいた学芸員の方や美術館関係者の方々にとっては苦渋の決断だったと察します。

 

その後もいろいろなご配慮をいただき、とても感謝しています。

 

この展覧会は、美術館関係者と学芸員の方の努力とご配慮で、また改めて、いつか展示の予定を考えてくださってますので、また、その機会がくれば楽しみにしていてください。

 

そこで、オープニングのイベントとしてギャラリートークが予定されていたのですが、たまたま僕の個展初日と重なり、企画いただいた学芸員の方に僕の代わりにトークを代読していただく予定をしていました。

 

その代読していただく予定をしていた文章を、このコロナ禍のテクノロジーの可能性に気づいた方々か少しでも増えた今、今回のblogでも抜粋してご覧いただきたいと思います。

 

テクノロジーには多くの誤解がある事、これを今回、ファッションや染織工芸、テキスタイル・染織産業の視座からアプローチしてみようと試みてみます。

 

これを機会に、あたらしい生活スタイルをつくるきっかけになれば…と願っています。

 

では、下記、抜粋して記載しますので、ぜひご一読ください。

 

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最新のテクノロジーとシステムを駆使してつくったロンT



私の作品は、「詫び」を代表とした引き算の文化と両輪のごとく存在していた、「婆娑羅」や「傾く」など派手で豪華絢爛な日本文化に影響を受け制作しております。

 

加えて、今回はTシャツがテーマであるため、ファッション・テキスタイル・染織の技術や生産システム・マーケティングなど、改めて考える機会をいただきました。

 

まず、誤解の無いように最初にお伝えしておきますが、私は様々な染織技法や素材、生産システムなど、一切否定はしておりません。

 

私の考えは、未来への可能性の1つとして提案できればと思っています。

 

ファッションや染織という分野は、決して自然環境に優しい分野とは言い切れません。

 

ファッションにおいては、マーケティングや流通・販売システムの関係で、使用されるよりも、はるかに多くの衣料品が生産され、その多くが新品のまま廃棄されています。

 

染色という分野では、生地に対して余剰な量の染料や自然分解できない染料を使う場合もあります。

また、廃液、水、CO2なども多量に排出してしまいます。

ある染色工場の経営者がおっしゃるには、多くの染色工場での現状のシステムでは、世界基準のCO2の排出量まで減らすことは、事実上不可能だと言われています。

 

草木染めという自然環境に良さそうな染色技法の場合でも、例えば媒染させる際に自然分解できない薬剤を使う場合もありますし、染液の抽出や染めの工程で長時間、煮炊きし多くのCO2を排出してしまう場合もあります。

 

繰り返しになりますが、私はこうした染織技術を否定するつもりは一切なく、多様な染織技法にはそれぞれの良さや作家それぞれの思いや考え方もあり尊重しています。

 

また、伝統とされる技術や素材を守っていく事も必要なことだと思っています。

 

私は今回、ファッションや染織、テキスタイル分野が、どうすればサスティブルな分野となり、未来につなげる事が出来るかという事に対して1つの可能性を試みました。

つまり、今回の制作技術、生産システムでは最先端のテクノロジーを活用しました。

 

制作技術においては、ポリエステル生地を利用し、インクジェットで染料を飛ばし、熱処理を経て生地に染める技法を使っています。

 

この場合、染料は生地に対して必要最小限の量しか使用しません。

多量の廃液や水を排出する事もありません。

熱処理においても、何時間も煮炊きするのではなく、瞬間的に熱を加えて染料を反応させます。

熱源も電気を利用した熱です。

ポリエステルは多くの方々がご存知ように再生可能な素材であり、オリンピック・パラリンピックの公式ユニフォームにもサスティブルな素材として再生ポリエステルが利用されています。

 

さらには型紙、シルクスクリーン型なども必要ないので、型代を消化させるために多量の生産をしなければコストパフォーマンスがあわないという必要性も無くなります。

オンデマンドで染色できるので、1枚からの生産も可能ですし、データ化されているため必要な量だけ複製もできます。

 

また、今回採用したシステムでは、Tシャツのパターン(型紙)に沿ってプリントしますので、余剰な染料やハギレを極限まで抑える事が可能です。

 

サイズの対応も、服のパターンに沿ってプリントできるため、様々なサイズをあらかじめ生産して在庫をもつ必要はありません。

つまり、完全な無駄のない受注生産が可能になります。

 

今回の制作システムは、オンラインプラットフォーム化されているため、ほとんどのやり取りがデジタルデータのみでペーパーレス化され、指示書や伝票関係など、紙媒体も必要ありません。

現場へ足を運ぶ回数も極端に減るので、移動に伴うコストや環境への負担もカットできます。

 

とはいえ、現地に足を運んで、質感や微妙なニュアンスを確認するため、実物を目の前にして、打ち合わせをする必要もありますが、一度おこなえば、後はほとんどリモートワークで完結します。

 

マーケティングにおいても、完全受注生産が低コストで可能であり、なおかつ、テクノロジーの進化で受注から完成までの期間も非常に短くなっています。

最先端のシステムでは、受注からプリント、縫製、完成まで約2日間あれば充分に可能です。

 

これによって、ファッションマーケティングの概念も大きく変革され、余剰な在庫や使用されず処分される衣料品も大幅に減っていくと考えられます。

 

ファッションやテキスタイル染織分野をいかにサスティブルな分野に近づけていけるかという課題において、自然に立ち戻る事、伝統とされる技術や素材を守っていく事、それぞれに可能性はあると思います。

 

その課題解決の1つの可能性として、テクノロジーの進化という事に目をむけてもいいのではないでしょうか。