彩鳳舞丹霄☆前川 多仁の鬼魔愚零録☆

染織工芸を出自とした美術家、前川多仁の公式Blogです。

テクノロジーへの誤解☆その2☆

 

先日、ちょっとガッカリしたことがありました…。。。

 

とある尊敬している工芸作家さんがいわく、「本物の天然素材を使ったものはちがう、素晴らしい」←厳密にはこの通りでは無いけど、僕はおおよそこのように理解したし、おそらく多くの人がこのような意味として解釈されたと僕は思ってます。。。

 

それでも、今でもとても尊敬している工芸作家さんだし、作家はそれぞれに色々なスタンスや考えをもってつくっているので、そう言う意見があっても、僕はいいと思っています。

 

もちろん、だから僕は否定もしません。。。

 

ただ、工芸に対して哲学的な考えを持っておられるし、広い視座をもった作家さんだったので、こうした言葉がスルッと出てくるのが、僕には、ただただ残念でならなかったのです。。。

 

 

いつも僕は口を酸っぱくするくらい言ってますが、工芸には妙なトリックがあるのです。

 

 

天然素材・手仕事・自然=本物

化学的素材・デジタル的仕事・人工=偽物

 

 

このトリック、ほんとにそうなんでしょうか?

 

工芸というのは、それぞれの時代において最先端の技術で非常に合理的な考えでつくられてきました。

 

だから「工芸は天然素材から出来ている」と簡単に言いきってしまうことは、非常に危険性を孕んでいます。

 

これに関しては、過去のblog「テクノロジーへの誤解」をご覧いただければ、より分かりやすいかと思います。

 

 

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自作 がま口シリーズ 写真提供:ギャラリー白白庵



 

全てではありませんが、染織工芸の場合、結果として天然素材から抽出されたものであっても、その抽出された染液は化学反応をおこし染まっています。

 

なかには、自然素材しか使わない「草木染め」といいながら、媒染(きわめて簡単に説明すると、化学反応を起こして、色を定着させること)する段階で、化学物質を使う事があります。

 

さらには、媒染で自然分解できない金属が溶解した化学薬品を使う場合もあります。

(※僕は「草木染め」を否定している訳ではありません。)

 

誤解の無いように、、、もちろん、自然素材(天然素材)だけで染めたものも存在します。

ですので、全てが危険で自然に悪いという訳ではありません。

 

(※ただし、自然素材(天然素材)が人体に害を与えることも、時としてありえます。)

 

しかしながら、そうした染色方法も人類が長い年月をかけてあみだし、化学反応という、じつはとてもケミカルな考えに基づいているものがほとんどなんです。 

 

また、以前のblogで書いたように、CO2の問題もあります。

最新テクノロジーで染めた方がCO2の排出量が少ない場合も多々あります

 

そもそも、コンピュータの起源は織機にあります。

 

織機の縦糸の「0-1」の上下運動で布は織られていきます。

 

この「0-1」の上下運動を進化させたのがジャカード織機であり、初期のジャカードでは「0-1」のパンチングシートが使われてます。

 

これが更に進化して、コンピュータとなったのです。

 

だからこそ、工芸という分野はコンピュータと非常に親和性が高いのです。

 

 

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自作 ぐい呑み巾着シリーズ 写真提供:ギャラリー白白庵



 

また、例えば陶芸で言えば、縄文時代の土器が今でも出土するように、陶芸は何千年も自然に戻ることはなく、とてもケミカルな素材・考え方であり、土からつくったからといえ自然に優しいと言い切れるのでしょうか?

(こんな事を書くと、陶芸家さんたちに嫌わられるかな?スミマセン。。。)

 

 

 

話は戻りますが、、、、、

 

そもそも、この作家さんの言われる、本物の天然素材って何なのだろう?

 

どういう定義をもって仰られているのだろうか?

 

では、逆に偽物の天然素材、本物の化学的素材ってあるのだろうか???

 

イヤミでも、論破するつもりでもなく、もちろん攻撃するつもりでもなく、、、僕は決して誰一人として傷つけたくはないのです、、、ただ、哲学的な考えを持っておられる作家さんだからこそ、ただただ単純にその作家さんに問いたいのです。。。

 

そして僕の知らなかった事を知りたいのです。。。

 

本物って、、、いったいどういう事なんだろうかという事を。。。

 

 

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自作 ポーチ「ベルベットマスター」 写真提供:ギャラリー白白庵



 

そうは言っても僕は他方で、工芸における、本物⇔偽物 議論や天然素材⇔科学的素材 議論、手仕事⇔デジタル的仕事 議論などなど、、、これほど今の時代に不毛なものはないとも、じつは思っているです。。。

 

なぜなら、こうした二項対立の時代はとっくに終わっている、、、っというか、もうすでに融合していて、境界線すらなく、グレーなのです。。。

 

究極的に言えば、そもそも最初、そう始まりからグレーだった。。。

 

最初から、なだらかに融和していたんだ。。。

 

言語化された瞬間から、無理矢理に二極化された、、、っとも僕は思っているんです。。。

 

だから、本当は全くもって、意味のない議論なんです。。。ある意味においては。。。

 

ただ、あまりも、ほんっとぉ〜に、あまりも、こうした工芸のトリック(もっと他にもあるんだよぉ〜)に気づいていない、また、トリックにハマってしまっている人を沢山、たっくさんみたり、出会ったりしてしまうのです。

 

 

 

繰り返しになりますが、、、僕は、どんな理論や考えであっても他人を傷つけるもの以外は否定はしません。。。

 

技法や素材に関しても同様です。

 

作家はそれぞれ、様々な理論や考え、スタンスを持って制作しています。

 

またそうした理論や考え、スタンスも、同じ作家のなかでも日々更新されていきます。

 

僕自身、数年前まで最新テクノロジーを自作に取りれるなんて考えもしませんでした。。。

 

だから、僕は一つの理論や考え、スタンス、技法、素材などを否定したり、論破して攻撃したい訳ではないのです。。。

 

誰一人として傷つけることもしたくないのです。

 

ただただ、それでは視座が狭いままで、あまりにももったいないので、僕はいつまでも、もっともっと口が酸っぱくなるなまで言い続けますね。。。

 

工芸というのは、もっと多角的に見た方が楽しいよって!!!

 

そして、もっともっと僕の知らない事を知りたいだけなんです。。。